月曜は一限が数学で二限が化学、三と四限が続きの体育。太陽が高くなるにつれて、健二の顔色はだんだんと紙みたいに白くなる。運動が苦手なのだ。今週は球技で、こいつは集団競技がへたくそだからなおさら。ただでさえ薄い影をもっともっと薄くして、コートの端でもじもじしながらパスをかわし、なんとか授業時間をクリアする頃には、びっしょりかいた冷や汗で病気みたいに見える。
 なにかに突出しているというのは大変かわいそうだと、健二を見ていて思う。きっと人間はパソコンのメモリみたいになっていて、ひとつのデータが容量を食いすぎると、なにかを削らなければ保たないのだ。その流れで言えば、神様はこいつに数学の才能を惜しみなくプレゼントするかわり、反射神経とかコミュニケーション能力とか注意力とか、生活していくのに必須の要素を各種取り除いてこの世に送り出したらしい。あんまりだ。
 ちなみに俺がなんでもバランスよくこなせるのは、こいつみたいな駄目っ子の面倒を見ることを義務付けられているからだと、かなり真面目に思っている。
「なあ、今キングこっち来てんの」
「うん、明日まで」
 創立記念日と体育祭の振替休みなんだって。ジャージの下を脱ぎながら深くこっくりする健二は、とても幼くいたいけに見える。一瞬ちょっとかわいく思ったけど、光の加減ということにした。見るほど肌は不健康に生っ白いし、骨が出っ張っていて、抱きしめても痛いだけのように思える。どんくさくて、数学馬鹿のこんなガリガリ、しかも男にムラムラするくらいなら、二次元に走るほうがよっぽどましだ。
「…なに?上着替えるから見ないでよ」
「あ、悪い」
 気持ち悪そうな顔してるけど、お前知らないだろ。腰骨の後ろ、本人からはちょうど見えないあたりに鬱血した跡。健二が気づかない間につけたんだろうなあ、恥ずかしがらせるためじゃないとなると、虫除けだよなあと思うと、おめでたくてため息がでた。
 オレンジ色のTシャツをもぞもぞと着る健二の左腰らへんを、ワイシャツでうまいことガードしてやる。クラスの人間に見つかったら何を言われるか。そしてこいつがぽろっとなにを零すか。考えるだにぞっとする。
 体育後の男まみれのロッカールームは汗と制汗剤が混ざった臭いで著しく酸素が薄いし、眼鏡は曇るし、足下なんかべたべたする。話題は、クラスの誰それが告っただの振られただの、今週のマガジンのグラビアはいいだの。だから、誰もこんなヒョロヒョロ取りっこない。安心してもっと見えないところにつけてくれと、もう一人の天才に言ってやりたい。余裕のない男は嫌われるぞ。
「佐久間、今日着替えるの遅くない?」
 誰のせいだ馬鹿。腹が立ってきたので、昼飯のパンはこいつにおごらせることにする。


(091014)