隊長の側で、生まれて初めて、寂しいということの本質を知ったように思う。 眩しくて隣になんかきっと立てない、ずっと背中を見るだけの生活。俺は寂しい。俺は隊長にとって何なんすか、と聞いてみたかった。アホな女みたいな台詞やな、と自分でもわかってはいた。 仕事を離れても一緒にいられるのはすごく嬉しかったけれど、恋愛初期について回る、ふわふわした高揚感が落ち着いてくると、やっぱり俺は寂しかった。傍にいる時もキスをしている時も身体を繋げたときでさえ、この人は一人。隊長が、俺に何かくれようと懸命なのはわかった。身体を探る手も、ふと振り返ったときに俺を見ている目も優しかった。だけど返そうとすると退かれる。一つとして返させてはくれないのだった。甘やかな飼い殺し。 「隊長」 潜めて呼ぶ。窓の外は真っ暗で、目をやった時計の蓄光の針が、うすぼんやりと二時を指している。クーラーをかけたままの部屋が冷えるから、隣の人にシーツをかけ直そうと指先で探ると、海水と塩素でぱさぱさした髪の質感に触れた。長い足がベッドからはみ出していて、俺の胸に後頭部を預けるような形で眠っている隊長。身体を起こして覗き込むと、眉間に皺が寄っている。眠ると決めたら三秒でスイッチが切れたように眠って、赤子みたいに無防備。だけどこんな時でも、見せるのは背中だけ。 「好きです」 空調の音と秒針が回る音が部屋に溢れて海に、その隙間で清かな寝息が波のように寄せては返す。ああ、こんな時まで静かやねんな、と思う。静かな呼吸は、まるで死んでいるみたいなのに、掴まえた手のひらは確実な温度を伝えてくる。両手で包んで、頬を寄せる。 真田さん、何も受け取ってくれないあんたに、俺は呪いをかけます。あんたはずっと一人。だから俺もずっと一人。あなた海のような人。 広くて大きくて、深い。気持ちだって物だって投げ込んでも、ほんの少し揺らぐだけで、すぐ元の、凪いだ海に戻ってしまう。だから俺の投げ入れた気持ちの屍骸が底の方で積もって、いつかさんご礁になってあんたに刺さりますように。
(100720)
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